2021/11/14

手紙

こんにちわ、NIKO、Fです。
 
about movie 第三回目は、
「手紙」をご紹介します。

私は、中高生主体の劇団を主宰しています(今は、演劇に関してはほとんど休止状態ですが)
ある日、中学生のリーダーの女の子(中2)が
「これ読んでください」と言ってきたのが、「東野圭吾」さんの「手紙」という小説でした。

これをうちで上演したい、とのことでしたので、まずは読んでみました。(東野圭吾さんの小説は好きですし)

感想は、東野圭吾さんって、こんなジャンルも書くんだ!という驚きと、
これは無理だろう、というものでした。
が、あまりに彼女が熱心なので、とりあえず映画versionも見ました。



これは難しい!
中学生のレベルではそれなりに物語としては演じることはできるでしょうが・・・
作者の伝えたいことを誤解なく表現できるかということ、そもそもそれを自分たちで消化できるのか?という部分が、中学生としてハードルを下げたとしても、無理だと思いました。
まずはどんなお話かというと

【STORY】(観ていない方のために)

川崎のリサイクル工場への送迎バス。 最後部座席に野球帽を目深に被った青年の姿がある。武島直貴(山田孝之)、20歳。 青年の暗い目には、人目を避ける理由があった。兄・剛志(玉山鉄二)が、直貴を大学にやる学費欲しさに盗みに入った邸宅で、誤って人を殺してしまったのだ。数度にわたる引越しと転職。大学進学もあきらめ、工場で働く直貴の夢は幼なじみの祐輔(尾上寛之)とお笑いでプロになることだったが、毎月刑務所から届く兄の手紙が彼を現実に引き戻す。兄貴がいる限り・・・自暴自棄になる直貴だったが、食堂で働く由美子(沢尻エリカ)の明るさと強さが彼を深い絶望の底から救った。 しかし、その幸せが再び脅かされるようになった時、直貴は決意する。・・・塀の中から届き続ける、この「手紙」という鎖を断ち切ってしまうことを。



【東野圭吾さん】

・ある時ふと疑問に思った。自分は果たして「事件」のすべてを描いてきたのだろうか。犯人が逮捕され、警察の活動が終わった後でも延々と続く、関係者たちの苦しみを描く必要はないだろうか。

・結局、小説の中では明確な答えを示すことはできなかった。書き終えた時に気づいたことは、これは答えのない問題なのだということだった。

・錯覚してもらいたくはない。加害者の家族にどう接するか。そんなものの答えなど、本当は必要ないのだ。その答えを求めなければならないことを、我々は嘆かなければならない。


【私感】

この作品は原作に非常に忠実に描かれており、作者の言うとおり、犯罪の関係者(家族)の苦しみを描いた映画です。
ただそのような場合、小説や映画に限らず犯罪被害者の家族の苦しみを描いたものが多く、加害者の家族に焦点を当てたものはあまりなかったように思います。その意味では大変珍しい視点です。

あたり前のことですが、加害者側にも家族がいて、家族としての苦しみがある。それを想像することは実はそう難しいことではありません。それでも多くが被害者側に着目してしまうのも、至極当然なことではあります。

作者が、見逃しがちな犯罪加害者の家族に焦点を当て、その部分を啓蒙しようとしたのであれば、中学生でもそれを演じることはできるでしょう。

しかし、作者のテーマ(主張)は、
「人は人との結びつきをなくしては生きていけない」にもかかわらず、「人を殺してしまった」という行為は、人としての矛盾であり、実は「この世がそんな矛盾に満ちている」からこそ「人は苦しむ」-そしてそれには「答えがない」
ということです。

最初から答えを設定していない問題について、中学生が議論することはできても、「方向を提示してそれを表現する」ためには圧倒的に経験や知見が少なく、自分たちが表現していることに対して「説得力を持たせることはできない」でしょう。

DVDを買ってきて、団員たちと鑑賞しました。
そのあとの、(先の)彼女の一言。
「やっぱり、いまは、無理です」

劇団にとっても、私にとっても、ある意味感慨深い物語ではありました。

中学生に観てほしいけれど、
それなりの力が必要な作品ではありますね。



【about STORY】

〇難しいテーマにもかかわらず、エンターテインメント性にも優れており、息苦しさを感じずに見ることができるのは、脚本・演出の力でしょう。

〇監督さんは、ドラマ中心の方で、「金八先生」「男女七人夏物語」「ビューティフルライフ」で有名な「生野滋朗」さんです。さすがにドラマチックな演出が際立っていました。

〇主演の「山田孝之」さん。実力ナンバー1の若手(もうそんな御年ではありませんが)
さすがです。兄役の「玉山鉄二」さんも、演技力はずば抜けていますね。

〇で、やはり「沢尻エリカ」さんでしょう。清純で、優しさと強さを凛と表現されているだけではなく、揺れる心情なども細やかに表現されています。美しいだけではありません。

〇周囲を固める役者さんたちも、それぞれの立場を深く理解して演じておられます。

吹越満」さん
被害者の家族が、加害者の家族も、自分たちと同じか、それ以上に苦しんでいるということを知って許す場面。この映画の最も核心に触れる場面だったと思います。苦悩と、人としての優しさ、立場としては相反する感情がストレートに伝わってきました。


※「杉浦直樹」さん
働いている企業の会長さんが、直貴の苦しみを理解し、アドバイスするシーン。
あえて援助するのではなく「差別のない場所を探すのではなく、差別のある場所で生きていく」
事を説きました。物語の転機となるシーンで、迫力もあり、直貴だけではなく、観る者に対しても説得力がありました。

〇挿入歌
「言葉にできない」ラストシーンで、直貴に手を合わせる兄・・・歌もそうなのですが、「小田和正」さんの声が最高です。兄の想いとシンクロしてます。



〇全体的に計算しすぎのようなところはあって、それを批判する方も多いのですが、そのような「あきらかな」「確信犯的な」演出だからこそ、重苦しくなりそうなテーマや、直貴の壮絶な決意に対して、未来への希望をかぶせることができたのかもしれませんね。


イヤー映画ってのは本当にいいものですね。
それでは、また、ご一緒に楽しみましょう!
さいなら、さいなら、さいなら???(わかる人しかわかりません、ごめんなさい)